きゅうり

 

盛々夏野菜のハードエッセイ & ショートストーリー 【思想、心理、書評、劇評、感想、あらすじ】
 

 

 
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 線路ぞいに細道があり、そこは鉄道会社の土地であったが、地域住民は抜け道として重宝していた。ところが鉄道会社にはあまり評判のよくない社員がいて、細道の一箇所に自分のランドクルーザーを停めはじめた。もともと細い道であるから、一箇所でも塞がれてしまうと通りぬけはできなくなり、ひとびとは迂回を余儀なくされた。こういうわけで、われら自治会役員五名が鉄道会社の支社へ直談判にいったところ、応対はすこぶる丁寧であったが、会社の対応については明言を避け、言質をとられるような約束めいたことは一言も口にすることなく、お申し越しの件について、回答は後日文書で差し上げるという返答を述べるにとどまった。
 一週間後に回答がきて、われらは呆気にとられた。いわく、件の道路はわが社の私有地であって、その用途について貴殿らから指示をうけるいわれはない。わが社の社員に駐車場として利用させることは、正当な権利の行使である。これで鉄道会社は完全に地域を敵に回してしまったことが明らかになった。われらはこの事実をできるだけ多くの人に知らしめることが必要と考えて、会う人ごとに語って聞かせた。
 すると今度はおまわりが訪ねてきた。どこぞの国ではあるまいし、噂を広めたかどで拘束されることなどないとわかってはいたが、それでも敵の手の内がわからず、どんな隠し球をもっているかわからないので、われらは警戒をおこたらなかった。おまわりの話によれば、鉄道会社の重役で警察に強力なパイプのある人がいる。それで、自分は、気が進まないのだが、偵察に来るはめになった、ということだ。それだけ言うと、他に何かできるわけもなく、おとなしく帰っていった。
 翌日、細道の両端にカラーコーンが出現した。そんなものを置かずとも、通りぬけのできない道に乗り入れるも者はいないのだが、鉄道会社の意思を示すにはじゅうぶんだった。それとも誰か個人の意思なのか?
 われらは署名活動を行なうことに決めた。そして署名用紙の印刷を発注した。しかし納品日になって、印刷屋は、今回の発注はなかったことにしてくれと言って、原稿と、手付金の戻しと、菓子折りを持ってきた。
 われらは熱意がつづかなくなり、五名で集まることも少なくなった。
 ところがある日、カラーコーンが忽然と姿を消した。ランドクルーザーもなかった。翌日も同じだった。様子見をしていた地域住民は、やがて何事もなかったかのように細道を利用しはじめた。その後、例の社員とすれ違ったとき、こやつはわれらを睨みつけた。まるでわれらが直接手を下しでもしたかのように。   
テーマ * 自作小説 ジャンル * 小説・文学

 

 

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盛々夏野菜

Author:盛々夏野菜

男性、既婚、事務系サラリーマン。
現代思想フェチだが、本を読むのが遅いのであまり多くは読めない。地底人生活を経て現在は臨床心理に関心がある。新鮮な胡瓜が好き。
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