きゅうり

 

盛々夏野菜のハードエッセイ & ショートストーリー 【思想、心理、書評、劇評、感想、あらすじ】
 

 

 
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瞑想は脳を扱うためのテクノロジーであり、本書で厳密に体系化されている。瞑想の理論が一点の破綻もないロジックによって明晰に記述され、著者の言わんとすることがすっと腑に落ちた。

著者によれば、瞑想とは脳内デスクトップの片づけである。しかしPCにたとえるならば、デスクトップよりもメモリといったほうが正確であろう。思考を棚上げし、メモリの空き領域を増やしさえすれば、システムが安定して心身ともに健康になり、あらゆる問題が解決し、うまくいきはじめる。反対に空き領域が不足すれば、エラーが頻発し、問題が山積みになり、苦しみがつのっていく。要するに問題の解決とは、問題を思考しつづけることではない。思考はメモリ領域を無駄に占領し、堂々めぐりするだけで、解決のための何物も生みださない。そうではなくて、解決とは無意識の自動的な過程なのだ(注1)(注2)。そして思考は不当にメモリの負荷を高め、無意識の働きを妨げる危険因子である。してみると、われわれにできることは、メモリの空き領域を増やし、無意識がサクサクと活躍できるように道を空けてやることなのだ。

本書の立場は、明らかに「われ思うゆえにわれあり」というデカルト説の否定を含んでいる。思考は「わたし」という主体の存在を証明しない。思考は脳という不完全な器官がうんだ徒花であり、堂々めぐりする自動機械にすぎない。もしどうしても「わたし」という主体が必要ならば、メモリの空き領域がじゅうぶん確保されたときに最大の実力を発揮する「動物的勘」こそがそれであろう(もっとも、これは著者の意見ではなく俺の意見であるが)。

瞑想をはじめて五日間。まだ少しもうまくできなくて、十五分もたないのだが、心身に変化が出てきた。
(1)一日でこなせる仕事のボリュームがアップした。
(2)長くわずらっていた皮膚炎が、薬をつけなくても治った(「薬をつけないから治った」のかもしれない)(注3)。
(3)小さなストレスの処理がうまくなった。不快なできごとを、胃痛や頭痛という形で身体にフィードバックさせず、横道にそらすことができるようになってきた。

この著者との出会いは、高橋和巳先生、石原加受子先生以来の衝撃であった。

(注1)「無意識」といっても、トラブルをつくりだすフロイト的な無意識とは真逆の存在である。この文脈でいうと、フロイト的無意識はむしろ「思考」のカテゴリーに入る。それも肥大化した怪物的な思考だ。

(注2)なぜ自動的に可能であるかについては、カテゴリ「全体は部分に優先する」特に「アーサー・ケストラー『機械の中の幽霊』―全体は部分に優先する(3)」を参照されたい。上位の自我は、下位のシステムに簡潔な命令を下し、具体的な手順はそのシステムに「委譲」することによって、自分自身で手を下すよりもうまく課題をなしとげる。意識することはかえって邪魔なのだ。

(注3)「このままでは治らないかもしれない」という不安(注4)は治癒を遅らせるようだ。脅迫的に薬を塗りつづける行為はこの不安と共犯的だ。

(注4)われわれは何度も「気がついたら治っていた」という経験をしているだろう。いやむしろ、そうでないことは稀であろう。そもそも治癒とはそういうものであろう。特効薬のパワーだけでなく、いや特効薬のパワーと同等か、あるいはそれ以上に、身体の総合的バランスの回復が治癒的に作用する。事実、人びとは特効薬が開発される前でも治癒していた。こういう経験の意味が十分腑に落ちていれば、「これまで何とかなってきた」ことの論理的帰結として「今回もなんとかなるはず」という結論が導けるはずなのだ。しかし、強力な特効薬の誕生がこういう経験則を不要にしたなどと考えて、特効薬のパワーでねじ伏せるイメージに執着してしまうと、身体バランスの変化への感受性を失い、せっかくの治癒のチャンスを棒に振り、希望を見いだせなくなってしまうかもしれない。こうして、「このままでは治らないかもしれない」という不安の出現は、特効薬信仰の危険な副産物かもしれないのだ。(注5)。

(注5)患者の「経験則」と同様に、医師における「治療スキル」の喪失も問題になりうる。特効薬の誕生によって医師の「治療スキル」も不要とみなされ、治療文化の伝承が途絶えてしまうとしたら、医学にとって深刻な打撃であろう。

始めよう。瞑想―15分でできるココロとアタマのストレッチ (光文社知恵の森文庫)始めよう。瞑想―15分でできるココロとアタマのストレッチ (光文社知恵の森文庫)
(2007/08)
宝彩 有菜

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Author:盛々夏野菜

男性、既婚、事務系サラリーマン。
現代思想フェチだが、本を読むのが遅いのであまり多くは読めない。地底人生活を経て現在は臨床心理に関心がある。新鮮な胡瓜が好き。
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