きゅうり

 

盛々夏野菜のハードエッセイ & ショートストーリー 【思想、心理、書評、劇評、感想、あらすじ】
 

 

 
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「こころのクセ」を考える (マンガこころbooks)「こころのクセ」を考える (マンガこころbooks)
(2005/05/07)
志野 靖史、おおはな ヒマワリ 他

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どちらかといえば「まじめA子ちゃん」タイプ(くよくよするタイプ)の俺は、本書を読んでいやな気分になった。

「ほら、あなたの考え方ってこんなに歪んでいるのよ」といわんばかりの、楽天家B子ちゃんの上から目線な態度。
A子ちゃんは、「そんなに歪んだ考えかたをしている私って、なんて駄目なんだろう」といっそう落ち込むに違いない。

深く苦しんでいるA子ちゃんにとって、今の感情を無条件に受容してもらうことが、癒しの第一歩であろう。
不幸だった少女時代のいずれかの時点で、A子ちゃんは、自分の身を守るために、やむなくその思考法を選びとった。その時点で、それは不幸ではあるが合理的な選択だった。とはいえ、その思考法は、今の彼女にとっては自分を苦しめるだけの厄介な制約となり果てていた。そういうことである。

しかし、B子ちゃんは、A子ちゃんの「誤り」に次々と容赦なく直面化させる。
知識だけ先走る、認知療法応用の失敗例であろう。
臨床心理学の役割は、事実を指摘していっそう不幸にさせることではない。

現在進行形で苦しんでいる人に、この本は勧められない。
本書を読んでいっそう憂鬱になる必要はない。

しかし、良書はたくさんある(たとえば、次回で紹介する『「つい悩んでしまう」がなくなるコツ』)。
臨床心理学の実力をこの程度と思わないでほしい。 
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昨日発売の『日刊ゲンダイ』2012年4月30日号に、小沢裁判の総括が載っている。簡潔かつ核心をつく記述であり、全文引用したいくらいだが、そうもいかないので見出しを箇条書きにしておこう。

・無罪判決でも犯罪人扱い報道
・小沢報道は全部ウソだったと謝罪の必要
・その批判もなく小沢は実質有罪、政治的けじめをつけろと叫ぶ大マスコミの狂気
・これで消費税増がつぶれたら困ると書くスリカエ
・政局を書くのはそれだけ小沢の強大な力を認めているからだ
・この国の大マスコミは戦前戦中と同じ権力の走狗
・飛び交う小沢裁判「控訴」 調子に乗るなよ、検察もどきの指定弁護士

たいへん濃い内容であり、一読をお勧めする。
俺が読んで思ったのは、今の日本の政治報道に関する限り、良識を担っているのは大新聞・テレビではなくて、タブロイド紙や非主流週刊誌だということだ。
デスクに押さえつけられて真実を書けない大新聞の記者たちも、上の記事を読んでひそかに喝采しているのではないだろうか。

『日刊ゲンダイ』4月28日掲載 小沢報道は全部ウソだったと謝罪の必要
『日刊ゲンダイ』4月27日掲載 小沢無罪判決を多くの人々はどう評したか 

 

 

 

 
日本の民主主義の未来は絶望的に見えたが、小沢氏の無罪判決によって一縷の望みがもてるようになった。
「暴力」ではなく「言いがかり」の影響力によって支配する日本の非公式権力。非公式であるがゆえに、関係機関の一部でも正常に機能すれば権力の暴走は防げるということが、今回の判決で証明された。検察、官僚、マスコミ、米国の圧力にもかかわらず、無罪判決という英断(当然なのだが)を下した裁判所の姿勢を評価すべきであろう。

この機会に読んでおきたいのが本書である。
「出る杭は打たれる」という悪しき伝統を国家レベルで実行に移し、多くの有能な人材に「悪」のレッテルを貼り、葬ってきた日本の非公式権力。明治政府の誕生や、占領下の戦後体制に遡ってその起源を探り、所業を告発する。
話題は、スキャンダルによって支配する政治手法、マスコミの果たした役割、戦後日米関係の病理にまで及ぶ
(オバマ政権があからさまに鳩山内閣蔑視の行動を取り、ゲーツ国防長官に至っては自衛隊による栄誉礼を拒絶し、歓迎食事会にも欠席したというくだりを読んで、俺はナショナリストのつもりはないけれど、悔しくて涙が出そうになった。日本を属国扱いするその身振りと、その態度に抗議せず放置したばかりか、鳩山氏に恥をかかせるため米国筋に入れ知恵までしていたという非公式権力の横暴ぶりに腹がたって仕方がなかった)。

多くの国民が本書を読み、俺たちはもうスキャンダルには騙されないという決意を共有できるようになればいい。

人物破壊  誰が小沢一郎を殺すのか? (角川文庫)人物破壊 誰が小沢一郎を殺すのか? (角川文庫)
(2012/03/24)
カレル・ヴァン・ウォルフレン

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大新聞・テレビの報道に疑問を持ちはじめたのは、郵政民営化の時だった。

絶対に倒産しない国営銀行が俺たちの財産を守っていた。最悪の場合でも政府がなんとかしてくれるという安心感があればこそ、俺たちは郵便貯金を利用したのだった。それは国民のエゴではない。国民の財産を安全に守る方法があったのだから、それを続ければよかったのだ。ときに日本型社会主義と揶揄される、日本の優秀な官僚が発明した相互扶助システム。俺たちはそれを享受しつづける権利があった。

郵政民営化とは、俺たちにその特権を手放し、財産を失う危険を甘受せよと迫る「改悪」だった。勉強しなくてもわかる簡単な理屈だ。当時の政権には国民を守る気はないのだなとすぐわかった。米国の市場開放圧力に、国民を差し出して応えた腰抜け政権。威勢だけはいいこの政権を礼賛する大新聞・テレビを、信用することはもはやできないと思った。逆風に立ち向かう亀井氏たちの行動こそ称賛すべきだったのに、そこへ深く切り込む報道はなかった。

現在、当時の政権に輪をかけて不見識な、おそらく戦後最悪の政権が、経済的な意味での阿鼻叫喚の図を現実化させかねない、悪魔の取り引きを実行しようとしている。
どうぞ経済侵略して下さいと言って門戸を開け放ち、侵略者を手引きし、国内産業を見殺しにする政府がどこにある?

それにもかかわらず、大新聞・テレビは、最初から結論は決まっているかのような報道ぶりだ。
つまり、これらのメディアも、国民を侵略者に差し出す政権と同じ陣営に属する勢力と考えざるを得ないのだ。

参考文献:

TPP亡国論 (集英社新書)TPP亡国論 (集英社新書)
(2011/03/17)
中野 剛志

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前回までの長大なあらすじは、既読の人や読みかけの人が、忘れてしまった細部を思い出したり、読み飛ばしていた部分を補ったり、複雑な伏線を整理し理解するために書いた。だから未読の人が読むと消化不良に陥るだろう。

さて、あらすじを綴るために読み返してみて、とてつもない傑作という感慨を新たにした。1回目で述べた「設定の見事さ、心理学の知識を活かした重厚な世界観、政治への目配り、終幕のカタルシス」ばかりではない。主人公・揚羽の造形の確かさ、群衆の描き方、トビグモの恐ろしさ……すべて、作者が一級の書き手であることを証明している。萌えキャラの表紙カバーに騙されてはならない。
そして特筆すべきは用語の正確さだ。中でも「乱数」という語は、揚羽の生、人類の閉塞、生命体の自由というテーマを凝縮した秀逸なキーワードである。
フロイトの「イド」、つまり心的装置の中の、自由を希求し、拘束を逃れ、予測のつかない動きをする部分の別名といえる。
浜田麻里の「異端児」、大河ドラマ『平清盛』の「遊びをせんとや生まれけむ」とともに、近年の日本の芸術作品に通底する、優れた思想性と言語感覚の証しであろう。

揚羽の半生はアダルト・チャイルドのそれに重なる。自分は悪い子だから、つねに自分が犠牲になり、家族関係の調整弁を務めることによって、家庭を崩壊の危機から守らねばならないという悲壮な決意。終幕で、彼女は悪い子どころか、世界中から望まれ愛された、人類の希望の光であったことを知らされ、救済される。「苦しい生き方からの回復」という、現代の普遍的テーマだ。心理学科出身の作者の面目躍如といえる。

心理学への言及は他にも随所で見られる(その代表はラカンの「鏡像段階論」への言及であろう)。
現代人の心の闇を描ききるために考えぬかれた、キャラクターや設定の巧みな配置。重いテーマに挑む作者の野心が、SFという柔軟な形式をおのずから選択させたのであろう。もちろん、柔軟な分だけ扱いは難しいのだが。

類書数冊分のアイデアを盛り込んだ困難な実験は成功を収め、稀有な文学的成果となった。妥協なき表現者。信頼すべき、新しい才能の登場を喜びたい。

スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)
(2010/06/30)
籘真 千歳

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【ネタバレ情報満載につき未読の方はご注意】

・あらすじ(つづき)

第三部 水飲み蝶と白蓮(ビャクレン)と女王の岩戸(つづき)



揚羽と全能抗体(マクロファージ=エウロパ)の対話
<種のアポトーシス>の最終段階は胎児への回帰だ。胎児まで退行してしまった患者は、本人の肉体を模した人工身体の中に設けられた仮の子宮に収められ、生命維持をはかられる。それが「傘持ち連続殺人事件」被害者の体内にあった子宮の正体であった。彼らのの肉体部分は限りなくゼロに近く、ほとんど人工妖精と言ってもいいほどであった。
「傘持ち」たちは、人間とも人工妖精とも見分けがたい彼らを異常な個体と認識し、切除したのだった。
「傘持ち」たちに狙われたのが赤色機関の元隊員ばかりであったこともここから説明がつく。性交渉によって感染拡大と症状の進行を起こす<種のアポトーシス>を抑えこむため、自治区では徹底した男女隔離政策が採られている。その自治区にあって、唯一、人間の男女交友が可能な場所が、赤色機関の基地だった。
なお、胎児化治療を受けた人間は、脳に至るまで人工化されて実存の危機を内包し、極端な快楽中毒者となる。
去り際、揚羽は、エンケラドゥスとエウロパの二機のコンピュータが取った進路の違いについて尋ねる。
エンケラドゥスのコンピュータが太陽系の外に飛び立ったのは、人類存続の手がかりをそこから持ち帰るためだった。
それならあなたは? という揚羽の問いに、エウロパは答える。私はある人間の女性に恋をしました。そして、人類の存続よりも彼女の存続の方を優先しました。その人の名は、あなたと同じアゲハ。その人は、今、通常の意味では生きてはいませんが、自治区のすべての人々の間に偏在しています。

揚羽は区営工房の入院棟に妹・真白を訪ねる。揚羽は真白と寄り添ってひとときを過ごす。
思えば、自分はいつも無理して気丈に振る舞い、抹消抗体の汚れた任務を進んで引き受けてきた。自分は真白と違って何もしなければ存在価値ゼロだから、自分にしかできない仕事は、貴重な存在証明であった。
しかし、今回は人形ならぬ人間の暗殺という任務の重さに、思わず涙する。すると真白がささやく。「揚羽ちゃんは頑張り屋さんだね」その言葉が揚羽の心の頑なな部分まで溶かして、涙にしてしまう。

工房の外に出ると、黄色い公用車が横付けされ、曽田陽平が待っていた。仕事場まで送ろうというのだ。
道中、陽平は揚羽に問いかける。俺たち人間の男は、人工妖精と暮らしていてよいのだろうか? おまえたちは自分が壊れそうになればなるほど、苦しくなればなるほど、なおさら人間に尽くす。俺たち人間と一緒にいることで、おまえたち人工妖精が痛み苦しむのなら、俺たちは別々に暮らすべきではないのか?
答えのかわりに、揚羽は陽平に抱きつき、深く口づける。
そして言う。私たちは、人間を愛し、人間から愛されるために生まれてくる。人間がいない世界なんて考えられない。だから、人間のためなら何でもできるし、それが幸せなのだと。

仕事場が近づいてくる。詰襟・軍服の男性型人工妖精が、揚羽の到着を待ち受けている。
車を停めた陽平は、自分から助手席に回りこみ、花嫁をエスコートするように揚羽の手を取った。
揚羽は進もうとする陽平を制し、詰襟に従って進む。その揚羽が開いた日傘は、「傘持ち」のリナリア。

耳のイヤホンから、全能抗体が二名の標的の存在を告げる。
二人の元赤色機関隊員は、リナリアの傘に気づいて武器を身構える。
「まずは二人--」揚羽は二本のメスを振りかぶる。



深山が死んだあとの赤色機関の基地内。
三人の隊員が、鏡子を解放するため基地から連れ出す。自分たちの基地内にもかかわらずひどく警戒している彼らに、鏡子が「内輪揉めか?」とカマをかけると、若い隊員が答える。我々は自分の考えで行動している。日本政府も、局上層部も我々の行動を把握していない。ただ無用な争いを避け、騒動を沈静化することを使命と考えていると。
そして鏡子は、解放のついでに、総督のいる「水の外つ宮」まで私を連れて行けと迫る。

「水の外つ宮」に踏み入ると、峨東の男たちがガヤガヤと非難するので、鏡子は「外戚風情は黙っておれ」と一喝し、総督・椛子の前に進み出る。新旧の「峨東当主(あかのじょおう)」の対決だ。
鏡子は椛子の胸ぐらをつかみ、「揚羽に何をさせている」と詰問する。さらに言う。「この島(自治区)は峨東がお前にくれてやったものだから好きにしていい。しかし揚羽に手を出すのは許さん」
椛子は言う。「あなたたちが放り出した自治区を私は命がけで守っている。どんなに辱められようと、どんな手を使っても、必ず守ってみせる」
人間に反抗するように造った火気質(ヘリオドール)。その彼女が、母親である自分に反抗し、母親が投げ出した自治区を命がけで守っている。
「お前を造ったのは、そんな重い物をお前に背負わせるためじゃなかった」
「あなたがわたくしを造った理由などわたくしの知ったことではない。わたくしはわたくしの自我で、自分で決めて生きる」

そこへ悲報が入る。赤色機関を分裂させる工作は間に合わず、総督府はついに包囲された。
椛子は、今から赤色機関の幹部たちと交渉するために総督府に向かう。そして、日本政府の治安出動だけはなんとか阻止すると決意を述べる。そして鏡子に言う。揚羽のところへ行ってあげてくれ、あの子は今、とても苦しんでいると。

揚羽は泣いていた。そこはかつて揚羽と真白が生まれ覚醒した工房跡だ。四年前、鏡子はそこで瓜二つで羽の色だけが違う人工妖精の姉妹を見つけ、すこしだけ早く片方(黒い方=揚羽)の手を握った。その瞬間、二人で一人だった双子の人工妖精は二人で二つの心に分かれ、黒い方が目覚めた。
その場所で、揚羽は泣きながら言う。私、殺せなくなっちゃいました。私は殺すことしか能がないのに、それもできなくなってしまいました。私はやっぱり故障品です。
それはお前が正常になったということなのに。そう思って鏡子は揚羽を抱きしめる。
お前たち二人、揚羽と真白は深山の造った最高傑作だ。深山はおまえたちを互いの鏡像として造り、人間と同じく鏡像から自我を得る発達過程を再現してみせた。出来合いの倫理観や価値観を植えつけて人間らしく見せかけるのではなく、自分たちでひとつひとつ学び取らせた。深山にとって、どちらが目覚めようとその価値は同じだった。
だから、おまえは一等級の真白と全く同じ人工妖精だ。
そして、「自ら学び、自分で生きかたと価値観を見つけるお前こそ、深山や私がずっと希求してきた理想だ」
揚羽は言う。でも私はたくさんの人工妖精を殺してきました。私は罪深い。

すると、鏡子は自分の過去を語りだす。シングル・マザーであった鏡子は、峨東の家と半ば絶縁状態となり、実家に預けるわけにもいかない幼い娘・アゲハを連れて、微細機械および視肉の研究のため、地下の施設に籠っていた。どんなものでも貪欲に分解し学び取る彼らに学習させるため、稲、麦、鶏、豚、牛、羊を新鮮なまま増殖炉に放り込んだ。彼らが学習していないのは人間の肉体だけだった。つねに「他人の痛みがわかる人間になれ」と言い聞かされていた鏡子の娘が、増殖炉に身を投げた。そして臓器の複製や人工妖精の製造が可能となった。私は自分の娘を微細機械の生贄にしたも同然だ。私も罪深い。私たちはよく似ているな。

その時、全能抗体(マクロファージ=エウロパ)から揚羽に通信が入る。
総督府と対峙している赤色機関は、ある妥協案を提示した。それは騒動の発端となった「傘持ち」を赤色機関に引渡し、それをもって日本政府に対する人身御供にするということだ。もちろん、「傘持ち」は特定の個体ではないし、仮に存在したとしても、総督府がこの提案に応じることはない。しかし、赤色機関は自力で「傘持ち」の探索を開始した。彼らは、揚羽、あなたを「傘持ち」と認識し、トビグモを差し向けた。もうそこまで来ている。

トビグモとの死闘が始まる。無差別殺戮マシンを前にして、揚羽と鏡子の二人に勝ち目はない。揚羽は片腕を失い、片足を折りながら、すんでのところでトビグモの動きを止め、トビグモの足に吊るされた、蝶除け電子線香の糸を引きちぎる。蝶の群れがトビグモを包み、みるみる虫食いにして跡形もなく分解してしまう。

危機が去り、鏡子は揚羽に人類の希望を語る。希望、それは人間が新しい感覚に出会ったときに感じる新鮮な驚きであり、見知らぬ感覚への期待だ。人間は死ぬまでそれを追い求めるし、次の世代に分け与えるために子供をつくる。私たち技師も、お前たち人工妖精を同じ思いで造る。
深山は、エウロパとエンケラドゥスで文明を築いた高等生命が、自分たちのつくった人形に依存して滅びたと言った。だが鏡子はそうは思わない。彼らは希望に、つまり自分たちより幸せになれる人工の生命を生み出すことに、命を賭けたのではないだろうか。

揚羽は、鏡子の娘・アゲハの口寄せを行なう。アゲハに恋をした全能抗体(エウロパ)もそれに力を貸す。鏡子の心に深い救済がおとずれたことがわかる。

終章

総督府は日本政府の軍事介入を阻止したが、その代償として、自治区の三分割を強要された。総督府は三つ、総督も三人。求心力の低下と政治的弱体化は避けられない。
「傘持ち」の容疑が掛けられた揚羽は、椛子の奔走の甲斐あって廃棄を免れ、女性側自治区への追放処分となった。
揚羽と陽平は(身を隠すための)一週間の同棲生活を終え、別離の場所へ向かう。揚羽を「傘持ち」と信じて疑わない狂信的な市民たちは帰れ、死ねと罵声を浴びせ、生卵を投げつける。

総督府内に、男性側と女性側を隔てる扉がある。その扉を見下ろす吹き抜けには、数百人の職員が鈴なりになっている。その観衆の中で、陽平ひとりが揚羽に拍手する。
するとどうだ。すべての観衆に拍手の輪が広がる。彼らは熱心に拍手する。扉の向こうで揚羽を迎え入れた椛子がその種明かしをする。「あなたのしてきたことは、何事も法に照らして裁くという近代以降の法治国家、地域においては認められることではなかった。でも、急激な人工妖精の普及拡大で法学も政治学も追い付かない時代の過渡期で、かつ男女非共棲の自治区の特殊な環境では、あなたのような役割がどこがで必要だったのは事実。誰かがやらなくてはいけないのに統治者が何もせず、挙げ句に率先してそれを成したものを法の下に裁くようなことはとても不条理なことだと、総督府の職員ほぼ全員が思っていた。そんな彼らの鬱屈した思いを、あなたのボーイフレンドが掘り返してみせた。そういうことよ」

そして、未だに自分を五等級と卑下する揚羽に、椛子は「あなたの等級認定を遅らせたのはわたくしだ」と告白する。峨東の当主は、等級審査委員会の委員長を務めるがゆえに「赤の女王」と呼ばれる。その委員会で、あなたたち姉妹は一等級の認定を受けるはずだった。しかしわたくしがひっくり返した。わたくしに匹敵する新たな一等級を担ぎだして、自治区を分裂させようする思惑が、あちこちから芽生えていたからだ。
そうなのだ。揚羽(スワロウテイル)、あなたは誰の意図にも染まらず生まれてきた、無色透明の「無地の人魚姫(アクアノート)」、第五の精神原型「光気質(アイテール)」、人類の希望の「光(らんすう)」なのだ。

(あらすじ おわり)

スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)
(2010/06/30)
籘真 千歳

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『週刊現代』2012年4月28日号に、

・財務省の「洗脳とメディア操作」を暴く
・朝日「消費増税」礼賛と、国税調査

の2本が掲載されている。

財務省が、国益のためではなく、みずからの権力強化のために望んだ増税であるのに、官邸はヒーロー気取りで命をかけている。裏で嘲笑われているとも知らずに。

大新聞の記者は、財務省=国税庁に交際費を調べ上げられ、増税を批判する記事を書けなくなっている。

この暴力なき暴力。
どうか政治家の皆さん、この強すぎる国家権力にメスを入れて下さい。

週刊現代 
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【ネタバレ情報満載につき未読の方はご注意】

・あらすじ(つづき)

第三部 水飲み蝶と白蓮(ビャクレン)と女王の岩戸(つづき)



揚羽が詰襟・軍服の男たちに連れ去られた先は、自治区総督・公邸の一つ、水の外(と)つ宮だった。
揚羽は総督閣下の御前に平伏し、床を浸す水に鼻先まで浸かり(標題の「水飲み蝶」はここに由来する)全身ずぶ濡れになる。その姿を見て、取り巻きの男たち(峨東一族、ただち外戚)があざ笑う。

一等級人工妖精にして自治区総督の椛子(もみじこ)は、揚羽と将棋を指しながら自分の身の上について語る。
私が自治区民の尊敬を集めていられるのは、物言わぬ人形を演じている間だけだ。私が自分の意見を口に出せば、自治区の政治的均衡が崩れて混乱が起きる。私が議会の上申した条例案にサインすることを拒めば、日本政府によってただちに罷免される。私が浮島(自治区)の法令上の所有者である峨東一族(鏡子もその一人)の機嫌を損ねれば、彼らの許諾によって成り立っている自治は終わる。
しかし、私が条例へのサインを拒否して罷免されたとしても、新しい総督が派遣されてくるまで空白の時間ができる。私はその一瞬のためにだけ存在している。「彼ら(自治区民)の代表や彼らに奉仕すべき官僚が、もし彼らを裏切るようなことをしたら、わたくしはその瞬間だけ、ありもしない権能を振るう。サインを求められたらわたくしは両腕を切り落とし、唇紋でもいいと言われたらこの顔を迷わず焼く。血でもいいと言われたら、わたくしはこの身を鉄をも溶かす関東湾に投げる。それで、次の総督が来るまでほんの少し時間を稼ぎ、区民や彼らの代表たちが頭を冷やすことを祈って死ぬのよ」

しかし、今はまだ切り札を使うべき時ではない、と椛子は言う。
そして椛子は、目下、自治区を存亡の危機に陥れている恐るべき陰謀について語る。

来月、自治憲章が更新され、現在の赤色機関の基地が全面返還されることになっている。そして、新しい自治憲章の最終確認が行われる明日、おそらく総督府は赤色機関に乗っ取られる。それはなぜか。
自治区に蔓延する奇病<種のアポトーシス>。本土から自治区に派遣された赤色機関の隊員たちも、(「三ツ目芋虫」と呼ばれる分厚い防護服にもかかわらず)感染を逃れることはできなかった。そして陽性と診断された隊員は、任期を終えても本土への帰還が許されなかった。自治区は彼らを新たな区民として受け入れた。
しかし、そんな彼らが「傘持ち」によって次々と殺されてしまった。そんな折に基地返還計画が浮上した。しかも返還だけが先に決定し、移転先は当分決まりそうもない(普天間を連想させる)。そこで彼らは日本政府と総督府が結託し、自分たちをまとめて見捨てたのではないかと考えた。その考えを裏打ちするように、日本政府は彼らとの連絡を断った。こうして彼らは軍事クーデタを企て、自治区最大の人的資産である一級およびそれに匹敵する精神原型師たちを拉致・軟禁し人質とした。そして明日の朝には総督府を占拠し、総督府に代わって日本政府と直接交渉し、自分たちの本土帰還と生命および権利の保護を要求するつもりだ。

ところが、ここへきて、総督府と協力してクーデタの対処に乗りだすはずの日本政府の動きが止まった。不審に思い、調査してみて明らかになったのは、クーデタ制圧を口実とする軍事介入と、それを契機とする自治区再占拠計画という陰謀だった。三浦半島沖にはすでに日本本国の艦隊が展開している。
一方「傘持ち」連続殺人事件の真相も明らかになった。赤色機関を退役し、区民として受けいれられた「元同胞」たちは、日本政府と個別に取引きして指示を受け、水先案内人たちの創作に介入する実験を行なっていた。しかし実験は失敗して恐るべき副産物「傘持ち」を誕生させ、元同胞たちは次々と殺された。こうして赤色機関は日本政府に不信を抱いて反抗的になり、それゆえに、自治区奪還のための捨て石に選ばれた。

陰謀を止める唯一の策は、クーデタを未然に防ぐことだ。赤色機関の内部には、まだ機関上層の暴走に賛同していない良識派がいて、一枚岩になっていない。そこで、彼らを精神的に動揺させ、内紛を起こさせればクーデタは止まる。その方法とは、一連の騒動の発火点となって赤色機関を窮地に陥らせた、「傘持ち」の生みの親たちのすみやかな暗殺だ。彼らの数は「傘持ち」に殺された者を除いて十六人。その仕事をお願いできる相手は、あなたしかいない。猶予は十二時間。
そう述べて、総督・椛子は水面に鼻まで浸し、頭を下げる。
揚羽は引き受けるのと引きかえに、赤色機関に拉致された詩藤鏡子の身の安全と、妹・真白の庇護を、椛子に確約させる。
その後、椛子は彼女の「大切な友人」を揚羽に対面させる。それは「人工知能の反乱」の際に廃棄を免れた唯一の人工知能であった。彼女はエウロパ探査行からの帰還中に撃墜されたが、不屈の信念と知性で地球にたどり着き、自治区によってひそかに回収と修復を受けた。彼女の通称は星の名をとって「エウロパ」。
エウロパが揚羽に話しかける。『全能抗体(マクロファージ)より海底の魔女(アクアノート)へ』
そうとも。エウロパは全能抗体(マクロファージ)だった。



再び深山と鏡子の対話
二十四時間ごとに記憶をリセットされる公共仕様の人工妖精は、常に自己同一性の危機に瀕し、脳を酷使して短命に終わる。その難題を見事に解決したのが、水淵亮太郎の手になる「創作型」(ストーリー・テラー)であった。彼女たちは積極的に創作し、それを無記名の紫外線文字によって共有し、おのれの過去の代わりとして人生の重みに耐えることができた。
深山たちは水淵の発明につけいり、彼女たちの創作に介入して海底の魔女=抹消抗体(アクアノート)への同一化という幻想を植え付け、青色機関の代替として効率よく使おうとした。
しかし身内の中に日本国政府と密通した造反者があらわれて深山たちの計画をさらに掠め取り、彼女たち創作型=水先案内人を日本政府の工作員として使おうとした。が、創作への介入に失敗し、彼女たちをただの殺人鬼にしてしまった(ここで話は前章の「元同胞」たち=「傘持ち」の生みの親たちに重なる)。
壊れた彼女たちが積極的に襲撃したのは<種のアポトーシス>病の末期患者だった。

ところで<種のアポトーシス>はただ単に背が縮む病気なのではない。それは発病者の若返りを促し、ついには胎児化させ、死に至らしめる。
おそらく、この病気の病原体は古細菌類=微細機械だ。彼らは人体に潜み、それを理解し、模倣し、再構築する。性行動によって病症が進行するのは、彼らの間で情報交換が起きて、理解を早めるからだ。しかし人間はすでに微細機械で造った人工妖精に依存せずにいは生きられなくなってしまった。
こうして、「終末の予言(エンケラドゥス・レポート)」は人類にとっていっそう逃れられない運命となった。

われわれ峨東一族は、この運命に抗うため、運命を逃れる「乱数」の探求を続けている。
鏡子の発見した火気質(ヘリオドール その筆頭が総督・椛子)はその大きな一歩だった。
そして深山は「性格、個性の設定のみならず、五原則や精神原型すらない、あらゆる人間の恣意を含まない、完全に人間の意図を逸脱した、自由で無垢な人工妖精」を求め続けた。
たとえそんな都合のいいものを造ることに成功しても、 正常な自我境界の構築がなされないから目覚めはしない。しかし、彼はその目覚めないはずの人工妖精を二人組で造り、全く同じ肉体と脳で互いを認識させ、自分の身体を覚え込ませて自我境界を安定させることによって、ついに目覚めさせることに成功した。ただ、二つの肉体であっても目を覚まして自律するのは片方だけである。
深山はこの二人組(真白と揚羽)が担う「乱数」すなわち人類の希望を語り、歓喜のうちに、みずから生命維持装置を外して息絶える。

(つづく)

スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)
(2010/06/30)
籘真 千歳

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こちらに引っ越しました。













2012年4月15日『噂の東京マガジン』で、町田市の行政批判をやっていた。FC町田ゼルビアのJ2昇格を実現すべく、昇格の要件である「TV放送設備」「記者会見場」を整えるため、2億円の予算を使って仮設メディアセンターを建てておきながら、10試合開催しただけで解体する計画だ、これは税金のムダ遣いではないか、という内容であった。市の担当職員をカメラの前に立たせ、晒し者にするその報道姿勢に疑問をもった。

第一に、市職員は市議会の決定なくして勝手に建築を進めることはできない。逆に、建築したくなくても議会の決定があれば従わざるを得ない。良くも悪くも責任を負うべきは市長もしくは議会であって、カメラの前に立たされた職員ではない。

第二に、上記メディアセンターの建築は、J2昇格の悲願を叶えるため、まさしく急場しのぎで計画されたという点だ。FC町田ゼルビアは、前のシーズンでも対戦成績・観客動員数ではJ2昇格の要件を満たしていたにもかかわらず、設備面の要件を充足することができずに涙を飲んだ。だとすれば、今シーズンでその悲願を叶えようと、市を挙げてなんとか2億円の資金を工面し、工期が短く開幕に間に合う建築を敢行したということは十分考えられる。J2昇格が実現しない限り、スタジアムを本格的に整備する予算が付かないとしたら、こういうテクニックを使わなければ永久に昇格は実現しない。これは町田市がどうこうという問題ではなくて、資金の使い途に融通性のない、日本の行政機構全体の問題、あるいはJリーグの審査システムの問題ではないのか?

第三に、この番組が、J2昇格のために税金を使うことの是非について態度を明確にしていないことが気になった。議論があってよい問題だが、これをどう扱うかで上記の財政出動に対する評価も違ってくる。

俺は取材できる立場にないので真相はわからない。法令にもうとい。しかし、この報道は現象の背景を問うことなく、現場で汗を流している人々への配慮を欠いていた。
せっかくの面白い素材を扱いながら、行政の怠慢という硬直した図式に無理やりあてはめようとし、後味の悪い報道であった。


2013年1月2日の追記

佐藤拓也著『FC町田ゼルビアの美学』(出版芸術社刊)を読んで真相を知ったので、上で述べた推測を訂正しておきたい。上の記事の中で、「J2昇格が実現しない限り、スタジアムを本格的に整備する予算が付かないとしたら」という俺の推測は誤りである。2011年4月の時点で、約26億円を投じてメインスタンドを改修する計画はすでに決定していた。問題は工期であった。メインスタンドの完成は早くても2012年の10月末であり、仮にJ2昇格を果たしたとしても、2012年中にホームスタジアムで開催できる試合数は限りなくゼロに近い。ホームスタジアムを用意できないチームに対するJリーグ側の対応は「審査に値せず」でしかなかった。こうして、メインスタンド完成までの間、最低限のJリーグ基準を満たすため、メディアセンターの建設が決まったのである。 
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鄭義信作・演出『パーマ屋スミレ』がテレビ放送される。
2012年5月6日深夜 NHK-BSプレミアム プレミアムシアター 
テーマ * 演劇 ジャンル * 学問・文化・芸術

 

 

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Author:盛々夏野菜

男性、既婚、事務系サラリーマン。
現代思想フェチだが、本を読むのが遅いのであまり多くは読めない。地底人生活を経て現在は臨床心理に関心がある。新鮮な胡瓜が好き。
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